日本人で初めてノーベル文学賞を受賞した川端康成の代表作『雪国』。
その小説の冒頭にある『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。』のフレーズはあまりにも有名ですが、これこそが当時完成したばかりの清水トンネルです。
群馬と新潟の県境に位置するこのトンネルは1931年に完成し、その長さは9702メートルと当時全国で第1位、また世界でも第9位を誇っていました。
川端康成自身も1934年に清水トンネルを通って新潟へ行った事が分かっており、またその翌年に雪国が執筆されているので、この時の様子が小説の中に描かれているのではないかと言われています。この『る』の札は、その清水トンネルを詠んだ札です。
最大の特徴は札にも詠まれている通り、トンネルの入り口と出口にあるループ状の線路。
以前『う』の札を紹介した際にもお話しした通り、線路で山の斜面を登ると車輪が滑ってしまう事が鉄道の弱点なのですが、これに対して当時の工事関係者たちは線路をループ状にすることで勾配をなだらかにして上る方法を採用した訳です。
さて、この清水トンネルができる前は関東と新潟は直接鉄道で繋がっていなかった訳ですが、当時関東の人達が新潟に向かう際どのようなルートを通ったのか、皆さんはご存知でしょうか?
正解は、高崎から横川方面へ行って碓氷峠を越え、軽井沢から長野経由で新潟へ行くというルートです。だからこそ、今でも高崎から横川へ行く路線名は”信越本線”と”越”の文字が残っており、当時はこの路線が新潟へと向かうメインルートだったのです。
しかしそのルートはかなり遠回りであり、かつ険しい碓氷峠を上らないといけない為、当時上野から新潟までの所要時間は急行列車でも11時間以上かかっていました。
それが清水トンネル開通後、群馬と新潟が直接繋がった事により所要時間は7時間10分と4時間も短縮され、新潟と首都圏の交通が飛躍的に改善されたのです。
ちなみに上越線の開通当時は単線だったのですが、現在は複線となっており、上り線だけがループを使用しています。
しかし実際電車に乗っていると『今ループを通っている』ということが体感しにくいそうです。私も学生の頃に長岡の友人の家に遊びに行く為、上越線に乗った事があるのですが、ループには全く気づかなかった記憶があります。
しかし、どうやら方位磁針を持って乗車するとループの所で針がクルクル回って面白いという噂を耳にしました。
現在は新幹線がある為、清水トンネルを通る電車の数も少なくなってしまいましたが、たまには普通電車の旅を楽しんでみるのはいかがでしょうか?
2022年1月25日
M-wave Evening Express 84.5MHz『上毛かるたはカタル』
KING OF JMK代表理事 渡邉 俊