明治から昭和初期にかけて、日本の自然主義文学の第一人者として活躍した『田山花袋』。
地元の館林市には田山花袋記念館があり、また昨年2021年がちょうど田山花袋生誕150周年だったこともあって、今でも多くの文学ファンが訪れています。
ところで、上毛かるたを知っている群馬県民であれば『田山花袋』という文豪の名前を知らない人はいないと思いますが、では実際にこの田山花袋の作品を読んだことはありますでしょうか?
58年の生涯の中で数多くの作品を残してはいますが、おそらくその中でも一番有名なのは1907年に「新小説」という文芸雑誌に掲載された作品『蒲団』だと思います。
この作品、読んだ事のある方ならばご存知と思いますが、日本文学史に超強烈なインパクトを与え、その後の小説家たちに途轍もなく大きな影響を残した作品なのです。
そもそも田山花袋が確立した『自然主義文学』というのは、人間のあるがままの姿をそのまま描き、人の美しい部分だけを取り上げるのではなく、みにくい部分も包み隠さず描写するという当時としてはとても斬新な考え方を指します。
そして代表作である『蒲団』のあらすじだけ紹介すると・・・
主人公の時雄という中年の文学者が、神戸から上京して自分の弟子となった女学生に恋をするというラブストーリーです。
しかし既に時雄には奥さんも子供もいる為なかなか恋仲になることができず、そうこうしているうちのその女学生には別の好きな人ができ、やがて時雄のもとから旅立ってしまいます。
喪失感にかられた時雄はその女学生が下宿していた部屋に向かい、彼女が使っていた蒲団とパジャマを引っ張り出して匂いをかぎ、顔を埋めてむせび泣く・・・というお話です。
このあらすじだけを聞くと『気持ち悪いおじさん!!!』と思うかもしれません。
しかし、今も昔も人間の恋愛をただただ美化する作品が多い中、その人間の深層心理をみにくい部分まで克明に描写したこの作品には当時多くの人が驚愕しました。
そして今でも『蒲団の匂いを嗅ぎながら泣く』という描写が、日本の自然主義文学の代名詞となっている訳です。
また忘れてはならないのは、この『蒲団』という作品は日本で初となった「私小説」であること。「私小説」というのは作者自身をモデルにした小説ということであり、主人公の時雄のモデルは田山花袋本人なのです。
読書の秋もあと1ヶ月。もう少しで本格的な冬がやってきます。
この11月の間に是非、田山花袋の作品を1冊読んでみてはいかがでしょうか?読んでもらえれば、田山花袋の描写のすごさと素晴らしさを分かってもらえるはずです。
2022年11月8日
M-wave Evening Express 84.5MHz『上毛かるたはカタル』
KING OF JMK代表理事 渡邉 俊