時は江戸時代中期の1783年。
この年の4月9日から始まった浅間山の噴火活動は小規模な噴火を繰り返し、7月7日に大爆発を起こします。
これを『天明の大噴火』と呼んでおり、群馬県内だけで約1500名もの死者を出した日本史上最大の火山被害となりました。
そしてその7月7日の朝に火口から流れ出た膨大な溶岩によってできたのが、『あ』の札に読まれている嬬恋村の鬼押出しです。
現在、鬼押出しの周辺は観光地として開拓されており、リゾートホテルやペンション、はたまた緑に囲まれた別荘などが立ち並んでいます。しかし、その緑の中を歩いていると何やら怪しげな穴が地中に空いているのも発見できます。
その数は1000個以上。穴の直径は50cmから2m、また深さは3mから7mとかなり大きな穴が群れを成すように空いているのですが、皆さんはこの穴が何かをご存じでしょうか?
この穴の名称は『浅間山熔岩樹型』。
実はこの穴の群れは地質学的に極めて価値の高いものであり、日本の天然記念物の中でも一番ランクの高い”特別”天然記念物に指定されています。
日本には現在1000件を超える天然記念物が存在するのですが、その中で特別天然記念物に指定されているものはわずか75件。如何にこの穴が価値の高い物であるかがお分かりいただけるのではないでしょうか。
しかし、なぜこの穴がそんなに価値があるのか、そしてなぜこんな所に無数の穴が開いているのかというと、それは先ほどお話した天明の大噴火に起源があります。
この噴火の時、火山から流れ出た火砕流は浅間山麓の林に達し、立ち並んでいる木を熱によって次々と燃やしていきました。そしてその熱が冷めた後,時間と共に燃えた木は朽ち果てていき、結果として地中には穴だけが残りました。
まさに地中に生えていた木の根っこの部分が型のように残っていることから”樹型”と呼ばれており、世界的に見ても珍しいものなのです。
ただ通常の火砕流は猛スピードで流れていくものであり、そうであるならば木はなぎ倒されてしまう為、穴は残らないはず。
しかし浅間山の樹型の穴は縦にまっすぐ伸びていることから、木はなぎ倒されずに燃えて行ったことになります。
なぜ火砕流になぎ倒されずに立ったまま燃えていったのか?これは今でも謎であり、火山学者たちの研究対象になっているのです。
現在、この樹型は1つ1つ番号で管理されており、嬬恋村の方々の手によって、穴の中に溜まる土や枯れ葉を除去する活動が定期的に行われています。
そして穴の中では貴重なヒカリゴケが神秘的な光を放っています。
2024年4月2日
M-wave Evening Express 84.5MHz『上毛かるたはカタル』
KING OF JMK代表理事 渡邉 俊